杉林 堅次 先生杉林 堅次 先生

城西大学薬学部 薬粧品動態制御学 教授、城西国際大学 学長

皮膚上、皮膚中などに製剤をインストールする?!

発表要旨

経皮吸収型製剤(Transdermal systems)は1980年前後に米国で開発された製剤で、現在では約20種の薬物に応用されている。本製剤に関する初期の研究の多くは、含有できる薬物種を増やすために経皮吸収の最大のバリアである角層透過性を高める吸収促進剤に関するものであった。製剤の形状としては膜制御型のリザバー型や拡散制御型のマトリックス製剤がまず世に出たが、現在ではテープ剤が中心となった。また、並行して外部エネルギーを用いた経皮吸収促進法の研究も進み、電気のエネルギーを用いたイオントフォレシスやエレクトロポレーション、超音波を用いたフォノフォレシス、熱エネルギーを用いた熱穿孔法、マイクロニードル、無針注射などが検討された。

近年の医薬品開発では、低分子から中分子や高分子であるバイオ医薬品に注目が移りつつある。中・高分子医薬では経口投与では効果を発揮しないものがほとんどであるので、注射剤が中心を占める。しかし、注射による投与では医療従事者が必要なことが多く、そのため薬物治療を受けながらも働くことができる患者でも病院に押し込めることになる。最近私は、薬は「投与する」から「インストールする」に移っていくと考えるようになった。IoTシステムを付与すれば、携帯電話等で薬物投与開始ボタンをONすることで体外(皮膚上)や体内(皮膚中)にインストールした医薬品(installable DDS, iDDS)から薬物INPUTが始まるように設計することが可能になるだろう。また、前述した外部エネルギーを併用すれば、低い吸収速度も克服できよう。まさにTransdermal systemsからiDDSへの移行である。なお、本講演ではiDDSに適した製剤についても紹介する。

プロフィール

現在、城西国際大学学長で学校法人城西大学理事。城西大学薬学部教授を兼任。1974と76年に富山大学薬学部と薬学研究科で学士、修士を取得。その後、城西大学で働き始め、1981年に薬学博士の学位取得(岐阜薬科大学)。1982、83年に米国ミシガン大学・ユタ大学に留学し、William I. Higuchi先生に従事。現在の専門は製剤学と化粧品学。今までに315報を超える一般論文、145報を超える総説、50を超えるパテント、そして書籍編集も約10冊を超える。昨年にはSpringer から“Skin Permeation and Disposition of Therapeutic and Cosmeceutical Compounds” を上梓した。学会活動としては日本薬剤学会(APSTJ)会長、日本香粧品学会(JCSS)副理事長、動物実験代替法学会理事(JSAAE)などを歴任。この間、2017年にAsian Federation for Pharmaceutical Sciences Nagai Distinguished Scientist Award、2015年にJSAAE功労賞、2014年にShukri Distinguished Keynote Lecture Award、2013年にAPSTJ学会賞、1996年に同会からYoung Researcher Awardを受賞。さらに、執筆した論文に対して、日本毒性学会から田邊賞、4回のAPSTJ Best Paper Award、日本油化学会Best Editor Award, AATEX Best Paper Awardなどを受けている。現在は. Asia Pacific Pharmacy Education Network (AP-PEN)の主要メンバー。2017年にはManagement & Science University(MSU)から名誉博士号を授与されている。