伴 真紀子 先生伴 真紀子 先生

大塚製薬株式会社 医薬品事業部 医薬品企画グループ マネージャー

世界初のデジタルメディスン エビリファイマイサイトについて

発表要旨

統合失調症などの精神疾患の再発率と抗精神病薬の服薬アドヒアランスには高い相関関係があり、服薬し続けることで症状の悪化や再燃を抑え、ひいては再入院を防げることが大規模研究調査などで知られている。一方で、患者は効果が感じられない、副作用がきつい、あるいは病識そのものが希薄であるなど、様々な理由により服薬を継続することができない、あるいは意図的に服薬しないことも分かっており、その服薬状況を把握すると同時に、服薬継続のための支援や疾患啓発、あるいは適切な服薬指導が重要である。しかし現実的に医療者や介護者・家族にとって、患者がどのくらい薬剤をきちんと服薬しているかは患者の自己申告や残薬のチェックに頼らざるを得ず、個々の患者に対して正確にそれを理解することは日常臨床の中では困難である。その結果、患者が再発した場合、医療従事者はこれが服薬アドヒアランス不良によるものなのか、それとも服薬しているが薬剤の有効性が原因なのかを判別するための情報がきわめて乏しいのが現状である。

大塚製薬は米国Proteus Digital Health社(以下プロテウス社)の持つ技術を導入し、世界で初めて服薬アドヒアランスを測定できるデジタルメディスンを開発した。これは大塚製薬が市販している抗精神病薬Abilify(エビリファイ)錠剤にプロテウス社が開発した極小チップを埋め込み、患者がそれを服薬すると胃中でチップがシグナルを放出、それを患者の腹部に張った小型パッチで記録するシステムからなる。このパッチは外部のスマートフォンに情報を送信し、さらには内蔵する各種センサーで患者の日常活動状態等もデータとして送ることができる。送られた情報は患者自身が自分の服薬状況を確認するとともに、患者の同意のもと医療者や介護者に共有され、それを元に患者の服薬アドヒアランスの良/不良や、日々の活動(運動や睡眠等)状況をタイムリーに知ることができる。これらの情報より医療従事者や介護者は患者の状態を常時把握することができると同時に、断薬や昼夜逆転等の患者が再発するサインを見つけ、適切な介入や教育を行うことでそれらを回避できることが期待される。

大塚製薬は2017年11月に、この世界初のデジタルメディスンに対する認可を米国食品医薬品局(FDA)から受けた。今後も製薬企業として従来のように医薬品を通じて患者や家族・医療従事者に貢献するだけでなく、新しい価値となる患者の重要な医療情報を提供することで、今後もより質の高い医療に貢献していきたい。

プロフィール

2011年大塚製薬(株)に入社。徳島研究所情報企画室に所属し、薬事部を経て、2015年より医薬品事業部医薬品企画グループでデジタル事業に従事。