分子型太陽熱エネルギー貯蔵(MOST)システム
はじめに
世界人口の増加に伴い、世界的なエネルギー需要は急激に増加しており、2040年までに年平均1.3%の割合で増加するとされています1。現在、この課題に対処するべく、石油、石炭、ガス、あるいは原子力といった従来型のエネルギー源だけでなく、風力や太陽光などの再生可能エネルギーの利用も進んでいます。新型コロナウイルス感染症(Covid-19)によるロックダウンに伴う経済危機の間でさえ、再生可能エネルギー源への需要は増加を続けました2,3。再生可能エネルギーがエネルギーミックス全体に占める割合は2020年に5.7%まで増加し、4.3%である原子力を上回りました3。2020年における風力と太陽光発電の合計増加量は238 GWで、これはこれまでのどの年よりも50%多い数値にあたります。再生可能エネルギー源の中でも最も豊富である太陽は、平均で約235 Wm-2のエネルギーを供給しています4。通常、太陽エネルギーは直接的な熱利用や電力生産に用いられますが、再生可能エネルギーがエネルギーミックスの主流になりつつある中で、効率的なエネルギー貯蔵がますます重要な課題となっています。太陽エネルギーの収集と貯蔵における有望なアプローチの一つに、分子型太陽熱エネルギー貯蔵(MOST:Molecular Solar Thermal energy storage)システム、または太陽熱燃料(STF:Solar Thermal Fuels)とも呼ばれるコンセプトが挙げられます。太陽エネルギーを用いて、通常は「分子フォトスイッチ」と呼ばれる分子が化学反応を起こし、高エネルギーの準安定な異性体となってエネルギーを貯蔵します。貯蔵されたエネルギーは、必要に応じて、熱、触媒、あるいは特定波長の光を用いることによって制御的に放出可能です。本稿では、MOSTシステムが満たすべき要件、さまざまなフォトスイッチの構造、その一般的な充放電機構、合成法、そして貯蔵されたエネルギーの利用方法について紹介します。
分子型太陽熱エネルギー貯蔵(MOST)システム
一般に、MOSTシステムは図1Aに示すように、少なくとも4つの機能要素を備える必要があります。MOSTシステムは、異性化、二量化、または転位といった光化学反応に基づいています。光化学反応の過程では、光子エネルギーは親分子であるAの、高エネルギーの準安定な光異性体であるBへの変換に伴って、化学エネルギーに変換されます(図1)。BはAと比較して高いエネルギー貯蔵密度を持ち、用途によっては適切な貯蔵半減期(t1/2)が必要です。逆反応の過程では、熱としてエネルギーが放出されますが、この際には熱や(触媒または電気化学的な)触媒システム、あるいは光によって活性化される場合があります。最後に最も重要な要素は、システムの安定性と利用可能性です。これは分子の調製を容易に行う方法を含み、応用面で経済的に成り立つことが必要となります。さらに、分子は長期間にわたり安定性を保ち、複数回のサイクルに耐える必要があります。これらすべての原理を満たすには、分子設計が最も重要な要素となります。

図1 A)MOSTシステムの特徴の模式図、B)MOSTの動作サイクル:i)元の分子の光励起、ii)準安定な光異性体の励起、iii)励起状態から光異性体への変換、iv)熱的または触媒的逆変換、v)サイクル可能性[5]。参考文献5より改変の上転載(copyright 2022 Elsevier B.V.)。
設計および合成に際しては、まずエネルギー貯蔵プロセスのエネルギーランドスケープと各段階をより詳細に理解し、効率的なシステムを構築するための要件に適合する最も理想的なコンセプトを導き出す必要があります5–7。このプロセスは主に4つのステップといくつかの副次的プロセスで構成されます(図1B)。光照射によって、分子Aは基底状態(S0)から光子吸収(i)を経て励起状態(Sexcited)へと励起される必要があります。太陽光照射による光子を効率よく利用するためには、このシステムは300~800 nmの光を吸収する必要があります8。これは入射する光子の50%がこの範囲に含まれるためです5。光変換(iii)を経て、励起分子は準安定で高エネルギーな光異性体Bになります。この過程は光異性化量子収率φisoに大きく依存します。可能であれば、1光子に対して1に近い量子収率で光異性化が進行することが望まれます。その後、この分子は半減期(t1/2)を指標とする長時間にわたって、この状態を維持する必要があります。用途によっては、室温でエネルギーを数日、数か月、あるいは数年にわたって貯蔵できるほど十分に長いt1/2が必要です8。ただし、このt1/2は逆反応(iv)の速度に依存し、熱的逆反応障壁ΔH‡と密接に関連します。準安定異性体がエネルギーを貯蔵するために、2つの異性体間のエネルギー差にあたるΔHstorageは可能な限り大きいことが望まれます。エネルギーを放出するには、逆変換(iv)が触媒、熱、電気化学的、あるいは一部の化合物では光化学的に引き起こされます。特に最後の光化学的トリガーは、異性体の励起と競合(ii)する可能性があり、できる限り回避または抑制されるべきです。理想的にはスペクトルの重なりは小さい方が望ましく、必要なときにエネルギーを放出できるよう、トリガーはできるだけ効率的であるべきです。このプロセスが循環的であることを考えると、最終的かつ重要な要素はMOST材料の充放電のサイクル可能性(v)です。このサイクル内で分解がまったく(ないしはほとんど)起こらず、材料疲労も起こらないことが求められます。実際の応用では持続可能性が求められるため、材料は環境や人間に対して無害であるべきです。これらの要件は非常に特異的で、単一の分子系ですべてを満たすことは難しく、実用的な応用に使用できる「理想システム」を見つけるのは大きな課題です。それにもかかわらず、これまでの研究の中でこれらすべての側面において重要な分子特性が明らかになり、性能向上へ向けた進展が着実に示されています。以下のセクションでは、現在研究されているさまざまな分子システムを紹介し、そして分子設計を通じてどのように機能が改善されてきたかについて説明します。
MOST材料としてのフォトスイッチ分子
これまでに、さまざまな分子系が研究され、MOSTの候補として提案されてきました5,6。現在、特に注目を集めている3つの主要な分子系は、ノルボルナジエン-クアドリシクラン(NBD/QC)、E/Z-アゾベンゼン(E/Z-AZO)、そしてジヒドロアズレン/ビニルヘプタフルベン(DHA/VHF)異性体(図2)です。

図2 現在研究されているMOSTシステムと変換プロセスの例。A)ノルボルナジエンNBD/クアドリシクランQC系、B)E-/Z-アゾベンゼン系、C)ジヒドロアズレンDHA/ビニルヘプタフルベンVHF系
これらの系がMOSTとして応用される際の最終的な目標は概ね似ていますが、各化合物群における充放電機構や分子設計の原理はある程度異なります。NBD/QC系では、分子が直接照射あるいは光増感剤の使用によって励起されます。励起後に起こる化学反応は[2+2]付加環化反応です(図2A)。無置換のNBDはUV領域でのみ光を吸収するため、太陽光吸収を最適化するための各種設計戦略が用いられています9。クアドリシクロラン分子は内部ひずみが大きく、約0.1 MJ mol-1ものエネルギーを貯蔵できるとされています10。いくつかの最適化された化合物では、1 MJ kg-1に達する貯蔵エネルギー密度が報告されています7,11。アゾベンゼン系では、E/トランス体からZ/シス体への変換が、それぞれの波長での照射によって行われます(図2B)6。しかし、元のZ-アゾベンゼンの貯蔵エネルギー量(0.041 MJ mol-1)はQCの約半分であり12、さらに光化学的な平衡のため完全変換を達成することは容易ではありません。Z-異性体は可視域での光照射によって再びE-異性体へ戻ります。この競合はデバイス応用においてバンドパスフィルターを用いる方法13や、分子設計14によって抑制できます。DHA分子は、光誘起開環反応によってVHFに変換されます。最初に生成するのはs-cis型で、次により安定なs-trans型へ変化します(図2C)15。VHFは通常、DHAよりも長波長シフトした吸収を示し、アゾベンゼンと同様ですが、光化学的には不活性であるため、可視光領域での競合的逆反応は起こりません。現在のところ、ほとんどの親分子は十分なエネルギー貯蔵能力を持たないため、構造設計や分子設計の戦略を用いてその特性を修飾・最適化する取り組みが行われています。
分子設計戦略
太陽エネルギースペクトルの大部分を貯蔵するためには、親分子Aの吸収スペクトルをレッドシフトさせるような置換基の導入が重要な課題となります。ここではNBD分子を例として説明します9。まず、ドナー-アクセプター(電子供与体-電子求引体)のペアとなるように親分子へ対応する官能基や置換基を導入することで、系のHOMO-LUMOギャップを小さくすることができます。設計指針としては、大きく2つの手法が挙げられます。1つ目は、NBD分子の2つの異なる二重結合にドナー基とアクセプター基をそれぞれ導入する方法で(図3A)16、こうしたプッシュープル系(NBD 1)はホモ共役の原理によって空間的な相互作用と電荷移動を促進します。ただし、その際に分子量が増加してエネルギー貯蔵密度が低くなってしまうことがあります。2つ目は、分子内の一方の二重結合にのみプッシュープル構造を導入する方法です(図3B、たとえばNBD 2)11。これにより吸収が長波長シフトして太陽光スペクトルとの重なりが大きくなる一方で、エネルギー貯蔵時間t1/2が低下する場合があります。
さらに、ドナー-アクセプター型の二量体系(NBD 3)を用いることで、吸収帯のさらなる長波長側への偏移およびブリッジを介した電荷移動の強化ができます(図3C)17。これは2つ以上のフォトスイッチング部位を有するマルチ光異性体構造の一般的な設計とも一致しますが、それぞれ異なる熱的逆変換障壁をもつ複数のスイッチング反応が一つの分子内で起こるため、分子量の増加にもかかわらず全体のエネルギー貯蔵密度が高まります18。したがって、現時点で有望なアプローチの代表が、系内の共役の拡張と電子供与基および電子求引基の導入の両方を組み合わせる手法といえます。アリール基やアセチレン基を分子コアに導入することで、一般に太陽光スペクトルとの整合性が向上し、π共役が強化されます。しかし特にアリール基を導入する場合は分子量が大幅に増加してしまうことがあります19。この対策として、一方の置換基を低分子量の電子求引基に置き換えることができます20。これにより、例えばNBD 4(図3D)のような吸収スペクトルが長波長側へ移動しながら高いエネルギー密度と多サイクルの充放電に耐える安定性を両立する有望な候補が得られます21。残念ながら、この場合ではt1/2の低下も確認されています20。NBD類の貯蔵時間を延ばすには、炭素ブリッジ部分にかさ高い置換基を導入したり、オルト置換基を導入したりする(図3EのNBD 5およびNBD 6を参照)設計が有効であることが示されています。これらは、立体反発効果が逆反応障壁に直接影響を与えるためです11,22。

図3 A–C)異なるNBDドナー-アクセプター構造とその例、D)長波長シフトした吸収特性、完全変換、高いサイクル特性、優れた熱放出特性を示す低分子量NBDの例、E)かさ高い置換基の導入またはオルト置換基による分子の二面角の変化を利用した半減期(t1/2)の向上戦略11,20,21。図は文献11、20、21から複製(引用元:2016 Wiley-VCH Verlag GmbH&Co. KGaA、2018 Wiley-VCH Verlag GmbH&Co. KGaA、および2017 The Royal Society of Chemistry)。
類似の設計戦略は、アゾベンゼンやDHAなどの他のMOSTシステムにも適用されています(図4Aおよび4C)。近年の研究では、アゾベンゼンユニットに置換基を導入することで、それらの特性(貯蔵時間、吸収プロファイル、異性化量子収率など)に顕著な影響がもたらされることが報告されています。例えばドナー・アクセプター構造やオルト置換基の導入、特にフッ素化アゾベンゼン(図4Aおよび4B)などがあげられます6。これにより、アゾブリッジにおける電子密度の低下がZ体を安定化し、半減期を大幅に長くします6。さらに、さまざまなπ供与特性をもつアミノ官能基を導入することで半減期や吸収域の長波長側への移動に影響を与えることができます。つまり、より強いドナーは可視領域へのスペクトルの重なりを大きくし、一方で弱いドナーはより長い貯蔵時間を確保します(図4B)23。アゾベンゼンにおけるフェニル置換基を、トリアゾールやピラゾールなどのヘテロアリール構造で置換する(図4B)と、その異性化特性に顕著な影響を及ぼし、多くの場合にZ体からE体へと完全に変換できるようになります6,14,24。ビス-ピラゾール系の場合、分子内部の立体障害の小ささやヘテロアリール部位の置換位置が、分子内相互作用による安定化の違いを通じて、熱的逆反応やシステムの半減期に影響を与えます14。また、アゾベンゼンの異性化に伴う相変化も利用したMOST材料も研究されています25。DHA分子も置換基の影響を受け(図4C)、特にC2、C3、またはC7位置への、多様な置換フェニル基などのドナー・アクセプターユニットの導入が検討されています15,26,27。これにより、特にC7位置にシアノ系置換基を導入した場合に、より長い半減期と吸収域の長波長遷移が達成されます28。C1位の2つのシアノ基の1つを水素原子やメチル基に置換すると、逆反応障壁が変わります29。一方計算からはC2–C3部位にベンゼン環を縮環させると、エネルギー密度が増加することが示されています30。

図4 A)アゾベンゼンの構造設計の例、B)構造の具体例と半減期への影響、C)番号を付したDHA分子および置換基導入の例。
合成と調製
MOST材料の調製は、分子システムとそれに伴う構造組成に強く依存しています。NBDの場合、合成は主に2つのアプローチを使用して行われます:パラジウム触媒によるクロスカップリング反応、またはDiels-Alder反応です(図5)。第一の合成経路は、市販の2,5-ノルボルナジエン(1、ビシクロ[2.2.1]ヘプタ-2,5-ジエン)を原料に、1,2-ジブロモエタンなどの臭素化剤と反応するか31,32、リチウム化を行った後にp-トルエンスルホニルハライドなどの求電子剤でクエンチしてハロゲン化種(2)を形成するものです33。これらの分子は、その後、パラジウム触媒を使用して、Sonogashira反応やSuzuki反応などのクロスカップリング反応を行うことができます(図5A)。このアプローチにより、いくつかの2,3-置換NBD(3)が合成されました11,20。
第二のアプローチは、シクロペンタジエン(6、CP)と置換アセチレン(7)を用いた[4+2]環化付加反応、すなわちDiels-Alder反応です(図5B)。この環化反応を進行させるには、両反応物の電子特性が重要です。通常、反応するのは、ジエンの4π電子とジエノファイルの2π電子です。電子的な要件を満たすためには、ジエンのHOMOとジエノファイルのLUMOが重なり合う必要があります。ジエノファイルが電子求引基(EWG、例えばCOR、COOR、CN)を持つ場合、LUMOエネルギーを下げることで反応が促進されます。EWG基をもつアセチレン類を用いると、電子豊富で反応性が高いジエンとの反応が容易に進行し、NBD(8)が得られます。また、出発材料によっては、この反応は溶媒を使用せずに行うことができます。前述のように、この合成経路はさまざまなタイプのNBDの調製に有効です11。しかし、シクロペンタジエンが不安定であり、通常はその二量体であるジシクロペンタジエン(9、DCPD)との平衡状態にあるという課題があります。CPは、逆Diels-Alder反応による熱分解を通じてDCPD(9)から再生することができます(図5C)。合成に高温を必要とするNBDの場合、両方の反応を組み合わせて行うことができます。

図5 MOST材料にむけたノルボルナジエン類の合成法。A)ノルボルナジエンからのリチオ化とハロゲン交換、ブロモ基の置換によるシアノ化、及びその後のクロスカップリング反応。B)シクロペンタジエンと活性化アセチレンとの間のDiels-Alder反応。C)加熱によるジシクロペンタジエンのシクロペンタジエンへのクラッキング。D)最近開発されたクラッキングとDiels-Alder反応を組み合わせたノルボルナジエン類のフロー合成法。
ほとんどの合成はバッチ法で行われてきましたが、スケールアップが困難なことがよくあります。したがって、別の手法としてフローケミストリーが注目を集めています。最近では、チューブ型フローリアクターを用いてDiels-Alder反応とクラッキングを1ステップで組み合わせ、より大量の化合物を調製できる連続フロー法が開発されました(図5D)34。ここでは、市販のジエノファイルであるエチルフェニルプロピオラート、およびCP(6)もしくはDCPD(9)を用い、5 mLのステンレススチール製コイルリアクターにおいて反応のスクリーニングと最適化が行われました。その後、最適化した条件をさまざまな置換アセチレン(10)に適用し、機能性が異なるNBD(11)を合成しています。この方法により、NBD合成をスケールアップして、数時間で約100 gを製造できることが示されています。実際の応用では大量の材料が必要になるため、この方法は非常に有用です。
アゾベンゼン類は、さまざまな方法によって合成することができます35。最も一般的なのはアゾカップリング法とMills反応です。アゾカップリングでは、NaNO2を用いて酸性条件下で第一級アミンから調製されるジアゾニウム塩を求電子剤として用い、電子豊富なアレーン誘導体など反応させます。一方、Mills反応は通常、ニトロソ誘導体を酢酸中でアニリンと反応させることで進行します。DHA分子は主に3つの経路で調製されています36。第1のアプローチは、8-メトキシヘプタフルベンと、マロノニトリルとカルボニル化合物から調製したジシアノエチレン類との[8+2]環化付加反応です。第2の方法は、四フッ化ホウ素酸トロピリウム塩を原料に、ジシアノエチレン化合物と反応させるか、最初にカルボニル誘導体と反応させてから、その後マロノニトリルと反応させます。これによりVHF分子が生成され、加熱下で対応するDHA化合物へと転化します。第3の経路では主に置換された7員環が得られ、トロポン誘導体を用いてVHFを形成し、ジシアノエチレンとの縮合を経て得られたVHFを加熱することでDHA形態に変換します。
MOSTシステムにおけるエネルギー放出
MOSTシステムは、エネルギーの取り込み、貯蔵、そして放出を、排出ガスゼロの単一システムで実現するという点で、非常に特異なエネルギーシステムです。ただし、エネルギー貯蔵効率とエネルギー密度が低いという課題があるため、これらの問題を克服しながら優れた特性を活用できる装置の設計が求められています。一例として、液系のMOSTシステムをソーラーコレクターに通した後、固定化触媒を備えた熱放出装置によって熱を取り出す方法があります(図6A左)37。この系では、QCからNBDへの変換に由来する化学エネルギーを使用し、装置内の温度を室温から85℃まで上昇させています(図6A右)37。また、この放出された熱は、ハイブリッドデバイスで水を加熱するのにも利用できます(図6B)21。さらに、電気化学的手法を用いて熱放出を引き起こすことも可能です。この過程では、初期に電極近傍で生成した中間体が拡散されながら、連鎖的なラジカル反応によってNBD'の再生成を引き起こします(図6C)38。この研究では、本反応が溶液中でも固体状態でも可逆的に進行し、エネルギー放出を制御する魅力的な方法であることを明らかにしました。
他にも、MOSTと相変化材料を組み合わせることで、長時間にわたって連続的に熱エネルギーを貯蔵・放出できるハイブリッド型システムが構築されています(図6D)39。さらに、多くのMOSTシステムは半透明であり、エネルギーの取り込み、貯蔵、放出が一体化しているため、機能性窓への応用など、従来なかった用途が考えられています40,41。具体的には、昼間の強い日射によって正午頃は室内温度が上がりすぎる一方で、夜間には窓からのエネルギー損失で暖房が必要になるような場所で、太陽光からのエネルギーの変動を調整するためにMOSTシステムを活用できる可能性があります(図6E)。将来的には、こうした機能を備えたMOSTシステムが室内環境制御を行う手段として期待されています。

図6 エネルギー放出および変換のための装置の例。A)熱放出装置の概略と平面図。B)水を加熱するために使用されるハイブリッドデバイスの図。C)QC’からNBD’への電気化学的変換に伴うエネルギー放出とサイクル特性。D)相変化材料とMOSTを組み合わせた、長時間の連続的熱貯蔵・放出を可能にするハイブリッドシステムの図。E)機能性窓内でMOSTを用いた24時間サイクルのプロット。図は文献21、37–39、41から複製(The Royal Society of Chemistry 2019、The Royal Society of Chemistry 2017、The Royal Society of Chemistry 2020、2019 Elsevier Inc.、および2022 Elsevier Ltd.)。
まとめ
MOSTシステムがエネルギー貯蔵に初めて提案されたのは、100年以上前のことです42。近年、太陽光エネルギー貯蔵に向けた分子フォトスイッチの機能を向上させるための取り組みが活発に行われています。本稿では、MOSTシステムの特性を紹介するとともに、エネルギー貯蔵密度や効率、利用可能性を高めるために用いられている設計原理を提示し、主要な合成例を文献から取り上げました。従来型エネルギー生産の課題や化石燃料の地域的偏在が意識される中、地球上のあらゆる地域で日光が得られるという事実を踏まえ、排出ガスゼロの新しい太陽光エネルギーシステムの開発が進むことを期待しています。