トリフェノキサゾール:有機エレクトロニクス応用のための新しい蛍光性光導電性液晶材料
Contents
- はじめに
- トリフェノキサゾール
- 光物理
3.1 吸収および蛍光特性
3.2 光伝導 - 自己組織化
4.1 液晶性
4.2 ナノワイヤへの自己組織化 - ポリマーマトリックスへの導入
5.1 3D印刷
5.2 スピンコーティング - 化学センサ
6.1. プロトン応答性
6.2. カチオン応答性
6.3. 電子不足芳香族応答性 - バイオイメージング:多光子顕微鏡
- ChromaTwist社のトリフェノキサゾール材料
1.はじめに
拡張有機π分子構造は、興味深い光物理学的1,2および電気物理学的3,4特性を有しています。その研究は、有機エレクトロニクス5やプラスチック・エレクトロニクス6といった学問分野につながっており、太陽電池7,8、有機EL9、蛍光(バイオ)イメージングなどに利用されています10。
分子性電子ドナー・アクセプターをベースとする有機材料は、ドナーおよび/またはアクセプター部位の修飾によって、例えばStokesシフトなどの電子特性11を制御可能です12。しかし、その範囲は、HOMOとLUMOの高度に調整可能な有機金属錯体13,14や無機材料15,16、共役系有機高分子17,18 と比較すると、相対的に小さくなっています19。このため、電子特性を広く調整可能な分子性材料が求められています。
本稿で紹介するトリフェノキサゾール(図1)は、ドナーおよびアクセプターの電子的性質を変えることができ、その結果、HOMO/LUMOや、Stokesシフト、(光)伝導性などの特性を調節することができます。また、液晶性をはじめとして、さらなる化学修飾による機能化も可能です。
2.トリフェノキサゾール
トリフェノキサゾールは、液晶性のヘキサペンチルオキシトリフェニレン(HPT:hexapentyloxytriphenylene)コアをベースとしており、オキサゾールのC2位にアルキルないしはアリール(R)基をグラフトしたオキサゾール環が縮環しています。このR基の性質により、トリフェノキサゾールの化学的、材料的、電気光学的特性が変化します。

図1様々なトリフェノキサゾール化合物

図2トリフェノキサゾールの吸収スペクトル(a-c)と発光スペクトル(d-e)。色空間プロット(右上)、常光および紫外線下での溶液(右下)
HPTとTpOx-n-Buの蛍光スペクトルは類似していますが、発光 λmaxの値はそれぞれ381 nmと366 nmと異なります(図2d)。ブチル基(TpOx-n-Bu)をフェニル基で置換したTpOx-Phでは蛍光スペクトルが大きく異なり、ピーク幅が増大するとともに、発光λmaxは約100 nmレッドシフトした467 nmとなります。アリール置換基がより拡張されたナフタレンおよびアントラセン基になると、発光λmaxはさらに長波長へシフトします。特に、9-An体は、純粋な有機分子材料としては最大のStokesシフト(341 nm, 22690 cm-1)を持つと考えられます。これらの光物性データを表1にまとめました。
いくつかのTpOx-R誘導体(および類縁体である3種のDBTOx-R )のHOMOとLUMOの値を図3に示します。HOMOエネルギーは一定でHPTと同様ですが、LUMOエネルギーはTpOx部位の置換基によって減少します。このLUMOの減少は、アリール置換基のπ共役がフェニル(TpOx-Ph)からナフチル(TpOx-2-Nap)、アントラシル(TpOx-9-An)と広くなるにつれてバンドギャップが狭くなることを示しており、TpOx-Arシリーズ全体の蛍光のレッドシフト挙動と一致しています。

図3トリフェノキサゾール誘導体(左)、およびDBTOx-R誘導体(右)のHOMO値とLUMO値

図4(a)トリフェノキサゾール誘導体の光電流挙動、(b)TpOx-2-Nap/PCBM組成物の導電性の光応答挙動

図5TpOx-n-Buの(a)液晶相の光学偏光像と(b)XRD、および(c)TpOx-R誘導体の相挙動のまとめ

図6溶液からの自己組織化によって形成されたTpOx-2-Napのナノワイヤー(直径100~300 nm)
5.TpOx-Rのポリマーマトリックスへの導入
このセクションでは、TpOx-Rをプラスチック/フレキシブルエレクトロニクスへの応用に向けた3Dプリントとスピンコーティングへと展開するために、TpOx-2-Napを樹脂ないしはポリメタクリル酸メチル(PMMA)に組み込んだ2つの例を紹介します。
5.1 3D印刷
TpOx-2-Napを3Dプリント可能な樹脂に組み込み、ディスク状にプリントしました。このディスクは蛍光性を維持し(図7a)、TpOx-Rが比較的高温での成形に適応できることが明らかになりました。実際、TGA分析からTpOx-Ar誘導体は、少なくとも250℃ まで熱的に安定であることが明らかになりました(図7b)。

図7(a)TpOx-2-Napをドープしたレジストを3Dプリントしたディスクと、(b)熱安定性を示すTpOx-Ar誘導体のTGA曲線。(図7aはWarwick大学Simon Leigh博士提供)

図8(a)TpOx-PhをドープしたスピンコートPMMA膜と(b)TpOx-2-Napドープ量依存性を示す蛍光スペクトル
6.化学センサ
トリフェノキサゾールの蛍光は、以下の点から、化学センサへの応用が期待されます。
- 蛍光色の調整が可能
- 特定の物質による消光が可能
以下に 、プロトン、カチオン、π電子不足芳香族化合物に応答する3種類のシステムを紹介します。
6.1 プロトン応答性
TpOx-Ph-m-NMe2は、アリール置換基としてプロトン化可能な芳香族アミンを有します。プロトン化されていない中性状態では、-NMe2基はフェニル基へのπ電子供与体として働きますが、プロトン化されて生じるアンモニウムカチオンは誘起的に電子求引する(-I)基として働き、アリール基の電子的な作用を大きく変化させます。このプロトン化に伴う蛍光の応答は、トリフルオロ酢酸を用いた滴定によって調べられました(図9)。プロトン化されていないTpOx-Ph-m-NMe2の発光λmax(457 nm)は、pHが下がるにつれてレッドシフトし、約520 nmで一定となりました。

図9H+濃度に伴うTpOx-Ph-m-NMe2の発光の変調

図10数種のカチオンに対するTpOx-B15C5の発光の応答と紫外線下での溶液の外観

図113-ニトロベンジルアルコールに対するTpOx-Arの発光応答

図12(a)TpOx-2-Napで灌流した肝臓切片の多光子顕微鏡像、(b)肝細胞内にTpOx-2-Napを保持することで可能となった肝血管の像。(図提供:Birmingham大学Zania Stamataki博士、Scott Davies博士)。

図13入手可能なトリフェノキサゾール材料