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ペロブスカイトおよびPbS量子ドットとその応用

Marat Lutfullin, Lutfan Sinatra, Osman M. Bakr

King Abdullah University of Science and Technology, Thuwal, Saudi Arabia

量子ドットとは?

量子ドット(QD:Quantum Dot)とは、ナノメートルサイズ(約2~10 nm)の半導体材料です。その小さな粒径により、量子ドットは量子閉じ込め効果やサイズ依存性の電気的および光学的性質を示します。1980年代にカドミウム系QDが発見されて以来、カドミウム系および非カドミウム系の多種多様な量子ドットが合成され、研究が行われてきました。量子ドットの形状とサイズを調節することで電気的および光学的性質が大幅に改善され、発光ダイオード(LED:light emitting diode)から太陽電池、光検出器、レーザー、電界効果トランジスタにいたる幅広い用途において重要な材料となっています。本稿では、非カドミウム系の新規量子ドットとその応用について紹介します。  

ペロブスカイト量子ドット

近年、APbX3 [A = Cs, MA(メチルアンモニウム), FA(ホルムアミジニウム)、X = Cl, Br, I]の化学式で示される、ペロブスカイト量子ドットが発見され、大きな注目を集めています。その主な理由は、フォトルミネッセンス量子収率(PLQY:photoluminescence quantum yield)が最大95%と高く、発光バンド幅が狭い(FWHM:full width at half maximum < 20~30 nm)点にあります。ペロブスカイト量子ドットは、CdSe系材料に代わる量子ドットと考えられており、粒径とハロゲン化物の組成に依存し、CsPbX3量子ドットの発光波長は可視スペクトル領域全体(450~700 nm)にわたって調節可能です。 図1 に、UV照射下の多様なペロブスカイト量子ドットの色を示します。CsPbCl3 量子ドットは青色に発光し、Clを部分的にBrで置換した複合ハロゲン化物ペロブスカイトCsPb(Cl/Br)3 では発光波長が緑の可視域へシフトしています(図2)。組成がCsPbBr3 の量子ドットは緑色に発光し、CsPb(Br/I)3 では黄色、CsPbI3では赤色へ発光がシフトします。

多様なペロブスカイト量子ドットの中で、組成がCsPbX3 (X=Cl, Br)で発光が450~510 nmの領域にあるものが最も安定しています。これらの量子ドットは、光学的性質および化学安定性が向上しているため、オプトエレクトロニクス用途で関心が持たれています。カドミウム非含有で鉛含有量が低いこれら量子ドットは、LED、LCD用バックライト、光検出器への応用が検討されています。

ペロブスカイト量子ドットの発光

図1UV照射下の多様なペロブスカイト量子ドットの発光

ペロブスカイト量子ドットCsPbX3のフォトルミネセンス(PL:photoluminescence)強度を示すグラフ(XはClとBr)。異なる組成に対する3つのピークが示されています。すなわち、緑色のCsPbBr3はピークが約520 nm、青色のCsPbCl1.5Br1.5はピークが約490 nm、紫色のCsPbCl3はピークが450 nm弱です。y軸は「PL強度(a.u.)」で範囲は0~1.0です。x軸は「波長(nm)」で範囲は400~600 nmです。グラフは、これらの材料のハロゲン化物の組成を変えることにより、材料の発光波長が調節可能であることを示します。

図2ペロブスカイト量子ドットCsPbX3(X=ClおよびBr)の発光波長

PbS量子ドット

硫化鉛(PbS)量子ドットの発光波長は、サイズ(2.5~8 nm)に依存し、電磁スペクトルの赤外領域にあたる900~1600 nmの間で調節することができます。通常、PbS量子ドットは幅広い吸収スペクトル範囲と狭い蛍光バンドを示します(図3)。このような特性を持つPbS量子ドットは、太陽電池の光吸収体または赤外発光体としての用途や、光検出器、赤外LEDといった用途に適しています。

PbS量子ドットは、ブロードな吸収スペクトル(近赤外から赤外)、高いピークバレー比(> 4)、狭い発光バンド幅(FWHM < 100 nm)、高PLQYなどの点で、太陽光発電用途で特に関心を集めています。PbS量子ドットのこれら特性は、タンデム型および多接合型太陽電池における太陽光パネルの高効率化への利用に適しています。

約4 nmの硫化鉛(PbS)量子ドットの吸収および発光波長のグラフ表示パネル(a)では、波長範囲600~1700 nm(X軸)における吸収係数(Y軸)を表す一連の曲線が重なり合っています。各曲線は2.5 nmから8.0 nmまでの異なる量子ドットサイズでラベル付けされて、吸収ピークのサイズ依存性のシフトを示しています。パネル(b)では、同様のサイズ依存性の波長シフトを有する対応するフォトルミネッセンス強度曲線を示しています。グラフの下には、暗青色の液体(おそらくPbS量子ドット溶液)が入った小さなガラス瓶の画像が示されています。

図3PbS量子ドット(粒径:約2.5~8 nm)の代表的な吸収および発光波長

量子ドットの応用

発光ダイオード(LED)

量子ドットは、LEDデバイスにおける発光層としての用途で非常に期待されており、狭い発光幅(半値全幅(FWHM)で定義)と、サイズや組成を変化させることで発光波長を調節できる点で、魅力的な材料です。 さらに、量子ドットLEDを使用したオプトエレクトロニクスデバイスをロール・ツー・ロール印刷で作製できる可能性があり、量子ドットの多くは軽量でフレキシブルなプラスチック基板に対して適合性を示すことから、低コストの大面積フレキシブルデバイスの作製が可能になる見通しが開けています。量子ドットを基盤とする可視LEDは、高い色純度と高輝度、低消費電力量であることから、有機ELディスプレイに続く次世代ディスプレイ技術と見なされています。

図4 に、量子ドットを用いたLEDデバイスの概略図を示します。まず、ITO被覆ガラスまたはプラスチック基板上に、スピンコート法で正孔輸送層(HTL:hole transporting layer)を形成します。次に、同じくスピンコートにより量子ドットを堆積させます。可視LEDの場合は、 ペロブスカイト、CdSeまたはInP系量子ドットを使用します。PbS量子ドットは赤外LEDの場合に使用されます。量子ドット層を作製後、電子輸送層(ETL:electron transporting layer)と電極を堆積させます。通常、電極にはAg、Au、Alなどの金属が用いられ、熱蒸着法で堆積させます1-6

量子ドット系LED構造の層を示す図。下から上の順で、層はそれぞれ、黒色の「電極」、濃灰色の「ETL」、緑色の「量子ドット」、赤色の「HTL」、青色の「ITO」、灰色の「基板」とラベル付けされています。赤色の上向き矢印は構造からの発光を示しています。層の左側は電気回路の概略図で、正端子と負端子がそれぞれ電極層とITO層に接続されています。

図4量子ドット系LED構造の概略図

照明

A) 液晶ディスプレイのバックライト

従来の液晶ディスプレイ(LCD:Liquid crystal display)では、白色LED光源がバックライトに使用されています。これに対して次世代 LCDでは、青色LEDとQDフィルターからなるバックライトシステムを使用します。フィルターは緑色および赤色の量子ドットを含有しており、青色光の一部を緑色光および赤色光に変換します。得られる赤色光、緑色光、青色光のFWHMが狭いため、広範囲の色域が生成され、より明るい、高コントラストの画像表示が可能となります。また、この構成ではエネルギー消費量が大幅に減少します。フィルターからの溶出物には3つのタイプがあります。この量子ドットフィルターは、「On-Chip」、「On-Edge」、「On-Surface」の3種類の方式で設計されます。「On-Chip」方式では、緑色および赤色量子ドット混合物をLEDパッケージ内の青色LEDチップの上部に分散させます。「On-Edge」構造では、青色LED光源近くに位置するガラス管内に量子ドットを封入します。「On-Surface」構造の場合、量子ドットを分散させたポリマーフィルムを青色LEDとLCDマトリックスの間に配置します(図57-11 。バックライト用途では、電磁スペクトルの可視領域に発光を持つペロブスカイト、CdSe、InP量子ドットが使用されます。

量子ドットLED(QLED)ディスプレイ技術の構成要素を示す図。左側は青色LEDの列で、その隣が右向き矢印、緑色と赤色量子ドットを含有するポリマーフィルムがあります。一番右側がLCDマトリックスパネルです。この図は、LEDからの青色光がポリマーフィルムを通過して、ポリマーフィルムに含まれる量子ドットが青色光の一部を緑色光と赤色光に変換して、LCDマトリックスに到達しフルカラーディスプレイを実現する仕組みを示すものです。

図5「On-Surface」構造の量子ドットLCDバックライトの概略図

B)蛍光体

量子ドットは、白色照明や園芸用照明などの用途で蛍光体として使用することができます(図6)。これら用途では、最も高効率で安価なLEDである青色LEDを主光源として使用し、LCDの場合と同様に青色光の一部を異なる色に変換するため、量子ドットを蛍光体として使用します。照明装置の構造としては、「On-Chip」型と「Remote Phosphor(リモートフォスファー)」型が可能です。「On-Chip」型ではLEDパッケージ内の青色チップの上に量子ドットを分散させますが、「Remote Phosphor」構造では青色LEDに隣接して量子ドットを含有するポリマーフィルムを配置します。白色照明の場合、緑色および赤色量子ドットの混合物を使用します。その主な利点は、高い演色評価数(CRI:Color Rendering Index)および相関色温度(CCT:Correlated Color Temperature)が得られるということです。これらパラメータは、自然光源と比較した場合に光源が多様な物体の色を再現する能力の目安です。

赤色量子ドットとポリマーの複合材料は、温室で植物を効率的に生長させる園芸用LEDの用途で期待されています。通常、植物のクロロフィルは赤色(600~700 nm)および青色(400~500 nm)の波長の光を最も効率良く吸収し、緑色の波長は反射します。したがって、青色LEDとポリマー赤色発光QD複合材料を使用した装置では、植物に熱を過剰に与えることなく、光合成を活性化する波長の光を照射することが可能になります。また、量子ドットの使用によりエネルギー消費のコストも削減できます。

(a)と(b)の2つの図はいずれも量子ドットを用いた光変換の概念を表しています。図(a)は、青色LEDが緑色と赤色量子ドットを含有するポリマーフィルムで光って白色光が放射される様子を示しています。図(b)は青色LEDが同様のポリマーフィルムで光っている様子を示していますが、赤色光のみが発されているため、色が選択されて変換されていることが示唆されます。どちらの図も、照明技術における量子ドットを用いた色変換プロセスを簡略化して説明しています。

図6(a)白色照明および(b)園芸用照明向けの量子ドットデバイスの概略

太陽電池

PbS量子ドットは、太陽光発電の用途で特に関心を集めています。PbSは、励起子のボーア半径が大きい半導体材料で、太陽光スペクトルの幅広い領域にわたって量子サイズ効果による調節が可能です。また、この材料を使用することで、サイズ効果でバンドギャップを調節し、1種類の材料からタンデム型および多接合型太陽電池を作製する方法の開発にもつながります。 図 7 に、量子ドットを使用した太陽電池の概略図を示します。 PbS量子ドットのバンドギャップはさまざまです。通常、ETL/ITO/ガラス基板構造の上に、p型PbS量子ドット膜をスピンコート法を
繰り返すことで成膜します。次に、HTLとAgまたはAuからなる上部電極を堆積させます。一般的に、電極の堆積には熱蒸着法 または電子線蒸着法が用いられます12-16

量子ドット系LED構造の層を示す図。下から上の順で、上向きの黄色の矢印があり、それが指し示すのが「基板」で、続いて「ITO」、「ETL」、「量子ドット」、「HTL」、「電極」とラベル付けされた層があります。左側には黒い線があり、矢印は電極層から伸び、電子(e-)の流れを示します。各層は異なる色で表示されます。基板は薄灰色、ITOは灰青色、ETLは薄青色、量子ドットは緑色、HTLは濃青色、電極は黒色です。

図7量子ドット太陽電池構造の概略図

光検出器

量子ドットは、赤外や可視光の光検出器に使用可能です。赤外光用光検出器は、暗視カメラ、ガス検知用大気分光分析、バイオメディカルイメージング、品質管理および製品検査の用途に使用されています。可視光用光検出器は、入射光を電気信号に変換する画像センサーとして使用されます。量子ドットは、監視、マシンビジョン(Machine Vision)、工業検査、分光法、生物医学的蛍光イメージングにも使用することができます。量子ドットを使用する利点は、シリコンエレクトロニクスやフレキシブル有機基板への組込みが容易であるということです。さらに、量子ドットは、インクジェット印刷、溶液キャスト、低温蒸着などの単純な手法で、基板のあらかじめ作製した電極上に堆積させることも可能です。量子サイズ効果によって光吸収および発光スペクトルを調節できる点も、量子ドットの重要な利点です。図8に量子ドットを使用した光検出器の概略図を示します。通常の作製工程では、ガラスまたはセラミック基板に電極を蒸着法で堆積し、続いてコロイド量子ドットもしくはポリマーに分散させた量子ドット混合物をスピンコート法で基板に堆積し、電極間に固体量子ドットフィルムまたは量子ドットポリマー複合材料を形成します17-18。PbS量子ドットは赤外域の光検出器に使用され、ペロブスカイト、CdSeおよびInP系量子ドットは紫外‐可視域の検出に用いられます。

量子ドットデバイスの簡略図。このデバイスは、2つの暗灰色の長方形の電極が両側に配置され、その間に「量子ドット」とラベル付けされた一連の小さな黒い立方体があります。これらの構成要素の下に、大きな薄青色の長方形の「基板」があります。図は、量子ドット電子デバイスの基本構造を表しており、その主要な構成要素を強調しています。複雑な詳細や仕様は示されていません。

図8量子ドット光検出器の構造

バイオメディカルイメージング

量子ドットは、優れた光安定性、ブロードな吸収スペクトル、高い吸光係数、調節可能な発光波長など、バイオメディカルイメージング用の発光プローブとしての利点を有しています。さらに、量子ドット表面をカルボキシ基やアミン基などで修飾して、抗体、多糖類、ペプチドなどの生体分子をコンジュゲートすることも可能です(図 9)。生体分子をコンジュゲートした量子ドットは、DNAハイブリダイゼーション、受容体介在性エンドサイトーシス、寄生虫代謝のモニタリング、組織および細胞構造のリアルタイム可視化、診断用途に用いられています19-21

(a)、(b)、(c)の3つの図は、それぞれ表面にさまざまな分子群が結合した球状の量子ドットを示しています。図(a)の量子ドットはカルボキシル基(-COOH)4個が結合しています。図(b)の量子ドットはアミン基(-NH2)4個が結合しています。図(c)の量子ドットは複数のアミン基が表面から突出していて、図(b)と比較して高い付着密度を示します。画像は量子ドットの官能基化を表していますが、これはナノテクノロジーや材料科学のような分野において、特定用途に合わせてナノ粒子の特性を調整するために重要です。

図9表面修飾量子ドットの概略:(a)カルボキシ基で修飾、(b)アミン基で修飾、(c)抗体をコンジュゲート

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