リチウムイオン電池技術の進歩における電解液添加剤の役割
はじめに
電気自動車やエネルギー貯蔵システムなどの重要な用途で電池の重要性が高まるにつれ、サイクル寿命の延長やエネルギー密度の向上など、性能の技術的進歩が急務となっています。現在利用可能な技術の中で、液体電解質を用いたリチウムイオン電池(LIB:lithium-ion battery)は、依然として最も現実的な選択肢です。
リチウムイオン電池の液体電解質は通常、極性の高い非プロトン性有機溶媒に溶解したlithium hexafluorophosphate(LiPF6)、lithium bis(fluorosulfonyl)imide(LiFSI)、lithium bis(trifluoromethanesulfonyl)imide(LiTFSI)などの高純度リチウム塩で構成されています。多くの場合、この溶媒はエチレンカーボネート(EC:ethylene carbonate)に1種類または数種類の直鎖状カーボネートをブレンドしたもので、リチウムイオンの濃度は1~2M程度です(表1)。一般には、電解液の性能を高めるために、1~5 wt.%程度の少量の追加分子を混ぜます。電解液添加剤と呼ばれるこれらの追加分子は、電池性能を最適化する上で重要な役割を果たします。
電池性能の向上を達成するために、電解液添加剤が経済的で有望な解決策としてますます注目されています。2018年から2022年にかけて、電解液添加剤を用いている学術論文と特許の年間件数はほぼ倍増しました(図1a)。また、リチウムイオン電池に関する論文・特許のうち、電解液添加剤を採用した論文の割合は5.8%から7.4%へと増加し続けています(図1b)。特に、電解液添加剤を用いたリチウムイオン電池に関する学術論文は、電解液添加剤を用いない論文の3倍以上引用されており(図1c)、電解液添加剤を用いることで、研究成果の意義と妥当性が高まることが示唆されます。
本稿では、リチウムイオン電池に使用される添加剤の化学的性質と用途に関する知見を提供することを目的とし、特にグラファイト系、シリコン系、及びリチウム金属系の負極、並びニッケル・マンガン・コバルト三元(NMC)系、リチウムリッチ系、リン酸鉄リチウム(LFP)系の正極に関連する課題を取り上げます。



図1 2018年から2022年までの学術論文と特許における電解液添加剤の使用の増加。a)電解液添加剤を使用した論文と特許の年間件数、b)電解液添加剤を使用したリチウムイオン電池に関する論文と特許の割合、c)添加剤を使用したLIBに関する学術論文と使用していない論文の平均被引用数。データはSciFindernを用いて収集。
表1 リチウムイオン電池における液体電解質の一般的な成分
負極用被膜形成添加剤
電池システムでは、負極が極めて重要な役割を果たし、負極と電解液の界面が電池全体の性能に大きく影響します。この界面の重要な構成要素は固体-電解質界面(SEI:solid-electrolyte interphase)被膜であり、電極と電解液の間で保護バリアとして機能し、望ましくない反応から両相を保護します。適切な保護がなければ、むき出しの負極表面でのエチレンカーボネートの還元などの反応によってガスが発生し、電池が膨張する可能性があります。緻密なSEI被膜を形成することで、界面でのエチレンカーボネートなどの溶媒分子の分解を効果的に抑制し、最適な電池性能を維持することができます。
被膜形成添加剤は、SEI被膜の組成、多孔性、弾性および厚さを制御し、それによって電池性能を向上させるための重要な成分となっています。これらの添加剤は、電解液に通常1~5 wt.%程度の少量が配合されます。一般的な負極用被膜形成添加剤の一群として還元型添加剤があり、これらは電解液溶媒よりも高い還元電位を有します。電池の初期サイクル中、または新しい負極表面が露出した際に、還元型添加剤は優先的に還元され、不溶性のSEI被膜を形成します。ビニレンカーボネート(VC:vinylene carbonate)は、典型的な還元型被膜形成添加剤です。被膜形成添加剤のもう一つの一般的なタイプに、反応型添加剤があります。これらの添加剤は、一般的にはイオン伝導性を高めたり、負極と電解液の間の寄生反応を遅らせたりするために、SEI中の主成分と反応して被膜を安定化しつつ、その組成を変化させます。
各負極材料(最も一般的なのはグラファイト、シリコン、リチウム金属)は、異なる化学表面を持つため、それに応じた添加剤が有効となります。各負極材料の特異な特性を理解することで、電池性能を向上させるための適切な被膜形成添加剤の選択と最適化が可能になります。
グラファイト負極用被膜形成添加剤
グラファイト負極は現行の電池に広く応用されていますが、添加剤が用いられるようになる前は、炭素系負極はサイクル寿命が短く、容量が急速に低下するという課題がありました。グラファイトの主な技術的課題として、その層構造の間に、プロピレンカーボネートなどの一部の溶媒がリチウムイオンと共にコインターカレーション(co-intercalation)されてしまう点があります。このインターカレーションは構造体の膨張を引き起こし、層間相互作用を弱めます。その結果、電池のサイクル中にグラファイト材料が物理的に崩壊または「剥離」し、容量低下と最終的な故障につながります。この課題に対処するものとして、VCのような特定の電解液添加剤が、グラファイト表面に強固なSEI皮膜を形成できることが見出されました。この被膜は、溶媒分子のコインターカレーションを効果的に防ぎます。電解液にわずか5%のVCを添加するだけで、グラファイトの剥離を十分に抑制できます[1]。
グラファイト負極の性能を大幅に向上させる添加剤カテゴリーの一つとして、カーボネート系添加剤があります。これらのカーボネート類は、耐久性があり高性能のSEIを形成することで知られています。負極での還元の際に、添加剤は優先的に反応し、炭酸リチウム、カルボン酸リチウム、重合生成物からなる薄く不溶性の被膜を形成します。カーボン負極に最も一般的に使用されるカーボネート添加剤には、VC、フルオロエチレンカーボネート(FEC:fluoroethylene carbonate)、ビニルエチレンカーボネート(VEC:vinyl ethylene carbonate)などがあります。各カーボネート添加剤に特有の構造は、生じるSEIの特性に影響を与えます。例えば、FECはVCに類似したSEIを生成しますが、LiFの含有量が高いため、界面のイオン伝導性を高めたり、インピーダンスを低下させたりします[2] 。VECは、フリーラジカルを効果的に消去する遊離ビニル基を持つSEIを形成し、溶媒の分解を防ぎます。最近、直鎖フッ素化カーボネートである、methyl (2,2,2-trifluoroethyl) carbonate(FEMC)およびbis(2,2,2-trifluoroethyl) carbonate(DFDEC)が、グラファイト、シリコン、およびリチウム金属のいずれの負極にも高性能SEIを形成できるという点で注目を集めています[3] 。これらのフッ素化カーボネート類は、電解塩を溶かす能力が高く、粘度が低いため、高濃度(90%まで)でも使用できます[4]。
グラファイト負極の性能を向上させる添加剤の他のカテゴリーとして、エチレンサルファイト(ES)、エチレンサルフェート(DTD)、1,3-プロパンスルトン(PS)などの硫黄含有添加剤があります。これらの硫黄含有添加剤は、電気化学的還元により、リチウム硫酸塩やリチウムアルキル硫酸塩に富むSEIを形成し、リチウムのグラファイトへのインターカレーションを促進します。ES、DTD、PSを添加したグラファイト負極は、サイクル特性に非常に優れ、界面インピーダンスは低くなります[5] 。これらの硫黄含有添加剤は、電池システムにおけるグラファイト負極の全体的な性能向上に寄与します。
シリコン負極用電解液添加剤
理論容量が大きいためにリチウムイオン電池に有望なシリコン負極の性能を向上させる上で、電解液添加剤は重要な役割を果たします。ほとんどのシリコン負極はシリコンとグラファイトを組み合わせた複合構造であるため、グラファイト負極に使用されるのと同じ添加剤の多くが、シリコン負極の性能も向上させることができます。しかし、シリコンは、リチウム挿入時に体積が大幅に膨張するため(最大300%)、SEIに機械的に負荷を与えてしまうという技術的課題があります。したがって、SEIの機械的特性が最も重要です。
FECやVCのようなカーボネート添加剤は、強固なSEIを形成できるため、シリコン複合負極に広く利用されています。これら添加剤のポリマー成分はSEIを機械的に柔軟にし、そのポリカーボネート成分は高温でも電気化学的に安定です。特にFECは優れた性能を示し、多くの場合3~20 wt.%の濃度で電解液に配合されます。FEMCやDFDECのようなフッ素化度の高い直鎖カーボネート添加剤は、LiFを豊富に含むSEIを生成させます。この高いLiF含有量によってクーロン効率が向上する可能性がある他、直鎖状カーボネートは、FECやVC単独よりも厚いSEIの形成を促進することから、容量保持性を高めます[6]。
リチウム金属負極用電解液添加剤
リチウム金属もリチウムイオン電池の負極材料として有望で、"聖杯"とさえ呼ばれています。しかし、リチウム金属負極に関連する重大な課題として、リチウムの表面から伸びる結晶性ナノロッドであるリチウムデンドライトの成長があります。このデンドライトが正極と接触するほど長く成長すると、電池のショートにつながり、暴走反応や爆発を引き起こす可能性さえあります。この問題を解決する重要な戦略の一つに、リチウム負極表面を不動態化または安定化させることでデンドライトの形成を抑制する添加剤の利用があります。
FEC、lithium difluorophosphate(LiPO2F2 またはLiDFP)、lithium difluorobis(oxalate)phosphate(LiDFOP)などの被膜形成性フッ素系添加剤(表3)は、リチウム金属負極上に強固なSEI層を形成することができます。これらのSEI層は、リチウム金属電池のサイクル寿命の向上に寄与します。一般的な配合としては、FECとLiDFPを通常低濃度(それぞれ約2~3 wt.%、1~2 wt.%)で組み合わせます[7] 。さらに、低濃度のLiDFOP(0.5~2 wt.%)は、LiFとフルオロリン酸種に富むSEIを形成させ、サイクル特性を大幅に向上させます[8] 。また,Li-S電池の研究から応用し、LiNO3添加剤(1~3 wt.%)がリチウム金属電池のサイクル特性を大幅に改善することを示しました。これは、無機成分を豊富に含むSEIがリチウム金属負極上に形成することにより、サイクル特性の向上を図るものです[9]。
正極用被膜形成添加剤:正極-電解質界面相
正極と電解液の界面は電池性能にとって極めて重要であり、正極-電解質界面相(CEI:cathode-electrolyte interphase)と呼ばれる皮膜が重要な役割を果たします。CEI被膜は保護バリアとして機能し、正極における電解質溶媒の酸化を防ぐとともに、金属の溶解を抑制します。被膜形成添加剤は、CEI被膜の特性を制御する上で重要な役割を果たします。正極材料ごとに独自の課題があることから、それに応じた適切な添加剤を選択する必要があります。
NMCおよびリチウムリッチ正極用電解液添加剤
層状LiNixMnyCo1-x-yO2 (NMC)系正極は、高い可逆容量と優れた熱安定性から、4V以上の高電圧正極材料として魅力的です。しかし、このような高電位では電解液の成分が表面で酸化しやすく、時間の経過とともに電池性能が低下します。さらに、電解液とNMCの表面反応によって正極材料が分解し、遷移金属が溶解して酸素ガスが発生することがあり、これが永久的な容量低下につながります。これらの問題は、さらに高い電位(4.5V以上)を達成するために使用されるリチウムリッチ正極材料では、より顕著になります。例えば、リチウムリッチ正極材料の場合、金属と酸素の損失により、数十サイクル後に構造が破壊される可能性があります。
リチウム塩添加剤
正極表面を分解から保護するために、lithium bis(oxalate)borate(LiBOB)やlithium difluoro(oxalato)borate(LiDFOB)などのホウ酸リチウム添加剤が有効であることがわかっています。高電圧では、LiBOBとLiDFOBは犠牲的に酸化を受け、LiリッチCEIを形成します。このLiリッチCEIは金属の溶解を抑制し、アルミニウム集電体の腐食を抑え、結果的に電池の寿命を延ばします。さらに、lithium difluorobis(oxalato)phosphate(LiDFBP)やlithium difluorophosphate(LiDFP)などの新しいリン酸リチウム添加剤は、寿命の延長と容量低下の抑制という2つの役割を果たします[10,11] 。LiDFBPとLiDFPは犠牲的に酸化され、低インピーダンスで金属の溶解を抑制できるLiFとリン酸塩を豊富に含んだ保護CEIを形成することができます。さらに、LiDFBPとLiDFPは、グラファイトまたはリチウム金属負極上で犠牲的に還元されることによって負極を保護し、薄い保護SEIを形成します。
CEIの性能を向上させる分子添加剤
FEMCやDFDECなどのフッ素化カーボネートの添加は、電圧フェードを緩和し、NMC及びLiリッチ正極の構造安定性を維持するための、最も効果的でコスト効率の高い戦略の一つとされています。これらの添加剤は電池動作中に分解し、LiFに富み、-CF2-構造を含むCEI薄層を形成します[12] 。これらのCEIは高電位でも非常に安定であり、インピーダンスを低下させます。さらに、低濃度(1 wt.%)のホウ酸シリルエステルやリン酸シリルエステル(表4)を加えると [13,14] 、ホウ素ないしはリンに富んだCEI層が形成され、これらはNMCおよびLiリッチ正極のレート特性とサイクル特性を著しく向上させます。
局所高濃度電解質
高濃度電解質(HCE:high-concentration electrolyte)は、特に高電圧正極材料において、従来の電解質の限界を克服する有望なソリューションとして浮上してきました。電解質の塩濃度が3Mを超えるこれらの電解液は、従来の電解液と比較して、電位窓の広さ、アルミニウム(Al)集電体の不動態化の改善、高い熱安定性と難燃性などの利点があります。HCEは、電解質の配位環境を変化させることにより、これらの改善を実現しています。HCEでは、遊離溶媒分子で希釈された溶液を形成するのではなく、塩と溶媒が接触イオン対を形成するところまで濃縮されており、ほぼすべての溶媒分子がカチオンに配位しています。その結果、電解質の実効的な安定性は、溶媒ではなく塩分子によって決まります[15]。
しかし、HCEには、濃度を3~5Mとするのに要する電解塩のコストと、高い電解液粘度という2つの欠点があります。これらの課題は、HCEを溶媒和しない希釈剤で従来の電解液に近い濃度(~1M)に希釈し、「局所」高濃度電解質(LHCE: localized high-concentration electrolyte)と呼ばれるものを形成することで巧みに対処できます。この希釈剤は、塩と溶媒和する溶媒とは混和しなければいけない一方、塩を溶媒和してはいけません。結果的に、希釈剤は、局所的に高濃度な塩-溶媒接触イオン対を維持したまま、溶液を希釈する役割を果たします。
LHCEに最適な希釈剤は、TTE、TFTFE、ETFE、HFPMのようなハイドロフルオロエーテルであり(表5)、これらは以下の理由で優れた性能を発揮します。第一に、これらのハイドロフルオロエーテルは粘度が低いため、LHCEの粘度を汎用的なセパレーターに適した粘度まで下げるのに有効です。第二に、これらのハイドロフルオロエーテルはグラファイト、シリコン、およびリチウム金属負極に適用可能で、LiFを豊富に含むSEI層の形成を促進します。第三に、ハイドロフルオロエーテルは、無機リッチなCEI層を形成させ、遷移金属の溶解、酸素の放出、およびNMCおよびLiリッチ正極における容量低下の原因となる望ましくない層状型から岩塩型への相変態を効果的に抑制します。これらの要因の組み合わせにより、優れたセル特性、特に高電圧電池の長期サイクル安定性が得られます[16]。
難燃剤:不燃性電解質
液体電解質の可燃性をめぐる安全上の懸念は、電気自動車などの用途に電池を応用する際の主な障害のひとつです。致命的な故障のリスクを軽減し、ユーザーの安全を確保するために、難燃性添加剤や難燃性溶媒が検討されています。
リン酸エステル系溶媒は、電池用難燃剤として最初に研究されたものの一つですが、従来型負極の低い還元電位に対して不安定であり、粘度が高いという課題があります。より有望なアプローチとして、ハイドロフルオロエーテルの添加剤または共溶媒としての使用があります。EFTE、TFTFE、TTE、HFPM(表5)のようなハイドロフルオロエーテルは、その優れた難燃性から有力になっています。LHCEの中には、リン酸エステル系溶媒と難燃性ハイドロフルオロエーテルを組み合わせたものがあり、これらは難燃性に優れており、適切な粘度を有します[18]。
不燃性電解質を実現するもう一つの戦略は、可燃性カーボネートをFEC、DFDEC、FEMCなどのフッ素化カーボネートに置き換えることです。アルキル基をフッ素で置換すると、酸素ラジカルの伝播が抑制され、自己消火時間(SET:self-extinguishing time)を大幅に改善することができます。これらの溶媒は、ハイドロフルオロエーテルとブレンドすることで、さらに粘度を下げることができます[19]。
不燃性電解質を得るためのもう一つのアプローチとしては、可燃性溶媒の不燃性イオン液体への置き換えがあります。すべてのイオン液体が不燃性というわけではありませんが、1-ethyl-3-methylimidazolium(EMIm)TFSIやEMImPF6などの特定のイオン液体は、いずれも中程度の濃度(10 wt.%以上)で使用すると燃焼性を低下させることが示されています[20]。
まとめ
本稿では、さまざまな種類の電解液添加剤と、それらが電池性能にどのような影響を与えるかを取り上げました。添加剤を用いた電池性能の向上は大きな成功を収めていますが、液体電解質における添加剤混合物の探索と最適化の余地は十分に残されています。我々は、これら添加剤の多くを商業化することで、研究者が電解質混合物を体系的に研究する機会が提供され、特に高電圧正極、シリコン負極、リチウム金属負極の進歩と連動して、液体電解質の技術的進歩が促進されることを期待しています。これらの分野における継続的なブレークスルーは、電池技術に革命をもたらし、全体的な性能をさらに向上させる可能性を秘めています。