リチウムイオン電池電極作製プロセスの合理化:実務者向け実践ガイド
概要
高効率なエネルギー貯蔵ソリューションへの需要が高まり続ける中で、電極材料および電極製造方法の最適化はこれまで以上に重要になってきています。本ガイドでは、高いエネルギー密度と安定性で知られる代表的な材料であるリチウムニッケルマンガンコバルト酸化物(NMC811)を用いた正極電極の作製手法を包括的に示し、材料調製、スラリー調製、塗工、およびポストプロセスに関する標準化された手順を示し、ラボスケールの電池作製において最適な性能を達成することに重点を置いています。本ガイドに示した詳細な標準操作手順(SOP:standard operating procedure)は、高品質な電極作製を支援し、電池技術への理解を深めるとともに、エネルギー貯蔵に関する研究開発における実験を設計するうえでの実践的なリファレンスとして機能します。
はじめに
リチウムイオン電池は、電気自動車(EV:electric vehicle)、エネルギー貯蔵システム(ESS:energy storage system)、携帯電子機器など、多様な製品に最も広く採用されているエネルギー貯蔵技術となっています。他の電池系に比して、高いエネルギー密度、長いサイクル寿命、安定した動作特性などの優れた性能をもつことから、より持続可能なエネルギーシステムの実現および世界的な二酸化炭素排出削減において重要な役割を果たしています1 。電池材料および製造プロセスの継続的な革新によってこれらの技術は進歩し続けていますが、その中でも電極材料は電池全体の性能を決定づける要素として特に重要です。
リチウムイオン電池を構成するさまざまな部材の中でも、正極材料は電池の容量、電圧、サイクル寿命、安全性に直接影響を与えるため、特に重要です。現在のリチウムイオン電池市場で主力となっている正極材料は、NMC(Nickel-Manganese-Cobalt Oxides:ニッケル・マンガン・コバルト酸化物)に代表される層状酸化物材料と、LFP(lithium iron phosphate:リン酸鉄リチウム)として知られるオリビン型材料の2種類です2 。特にニッケルリッチなNMC811は、高エネルギー密度と優れた出力性能を両立できることから、高容量EV用電池の有力候補として注目を集めています。
リチウムイオン電池の性能は、電極材料そのものが本来持つ特性に加えて、各材料を電極にどのように組み込むかを規定する製造プロセスにも強く影響されます。2032コインセルのラボスケールでの作製は、一般に図1に示す一連の標準化されたステップによって行います。すなわち、スラリー調製、スラリーの集電体への塗工、制御された条件下での乾燥、電極密度および厚さを調整するためのカレンダー処理(圧延)、電極打ち抜き、そして最終的なセル組立です3 。これらの各ステップは、電極の空隙率、密着性、電解液の浸透性に重大な影響を及ぼし、その結果としてセルの電気化学的挙動を決定づけます。
ラボスケールにおける電極作製ステップ自体は文献において明確に解説されていますが、作製条件と電極特性とを結びつける、明確な段階を踏んだプロトコルは、研究者が実験を設計・最適化するうえでの有用な指針になると、私たちは考えています。そこで本ガイドでは、当社のNMC811を例として用いながら、ラボスケールでの標準化された実践的な電極作製法を紹介します。また、一般的な落とし穴を回避するための段階ごとのプロトコルおよびトラブルシューティング情報も提供します。

図1ラボスケール電極作製および2032コインセル組立プロセスの模式図。このワークフローは、スラリー調製、アルミニウム集電体への塗工、乾燥、カレンダー処理、電極打ち抜き、最終的なセル組立から成ります。各ステップは、電極のミクロ構造、密度、および密着性を規定する上で重要な役割を果たし、最終的な電気化学性能を決定づけます。
実験
本セクションでは、各手順で使用した材料、装置、機器、および付属品について説明します。
材料および装置
本研究で用いた材料は、いずれも追加の精製を行わず、そのまま使用しました。正極活物質であるLiNi0.8Mn0.1Co0.1O2(別名 NMC811)、導電助剤のSuper P®(カーボンブラック)、および溶媒のN-メチル-2-ピロリドン(NMP, anhydrous, 99.5%)は、シグマアルドリッチから入手しました。バインダーであるポリフッ化ビニリデン(PVDF)はArkema社(Kynar® HSV 900)から調達しました。電解液には、1.0 M LiPF₆のEC/DMC/DEC= 1:1:1(v/v/v)溶液を用い、これもシグマアルドリッチから入手しました。三層セパレーター(PP-PE-PP、Celgard® 2320)および2032コインセル部材はWellcosから調達しました。すべての操作は標準的な実験室環境下で実施しましたが、水分に敏感な材料を取り扱う工程については、H2O/O2 < 0.1 ppmのアルゴン雰囲気グローブボックス内で行い、周囲空気への曝露を最小限に抑えました。
実験を開始する前に、関与するすべての化学物質の安全データシート(SDS:Safety Data Sheet)を読み、その安全性等を十分に理解しておくことが不可欠です。適切な個人用保護具を着用し、ドラフトチャンバーなど、適切な安全環境下で実験を行う必要があります。
装置および機器
- グローブボックス対応二軸式プラネタリーボール真空ミキサー
- コンパクトテープキャスティングコーター:真空チャック(200W×365L mm)、フィルムアプリケーターおよび下部ヒーター付き
- NRTL認証53 L・200℃真空オーブン(16×14×15インチ)、デジタル温度コントローラー付き
- 110℃ホットロールプレス
- 手動式打ち抜き具(直径:14 mm、16 mm、19 mm)
- 自動コインセルクリンパー
装置用アクセサリー
- 2032コインセル部材一式
その他試薬およびアクセサリー
ラボスケール電極作製法
本セクションでは、正極スラリーの調製、塗工プロセス、塗工後処理、打ち抜き、および電池組立の方法について説明します。
正極スラリーの調製
乾燥:一般に水分は電気化学特性に悪影響を及ぼしますが、吸着水分を含んだ材料を使用することでセル内に不注意に入ってしまうことがあります。残存している可能性のある水分を除去するためには、炭素系添加剤および正極材料などの試薬を、実験開始前に60℃程度の真空オーブン中で予備乾燥することが有用です。これにより最適な性能が担保され、水分の含有に起因する電極の電気化学特性への悪影響を防ぐことができます。
秤量: スラリー調製にあたっては、真空ミキサーで混合するのに十分な量とするため、合計20 gを使用します。各成分の重量比は、NMC811が90%、Super P®およびpoly(vinylidene fluoride)(PVDF)がそれぞれ5%となるように秤量します。
混合:初めに、真空ミキサー内でPVDFと37.5 mLのNMP溶液を混合します。このステップは、均一なバインダー溶液を得るうえで極めて重要です。PVDFとNMPを十分に混合した後、あらかじめ秤量したNMC811およびSuper P®を徐々にバインダー溶液へ添加します。私たちは、NMC811およびSuper P®の固形分濃度を約35 wt.%とすることを目標とし、これを粘度の判断基準としました。使用する材料によってわずかな違いが生じる場合はありますが、凝集塊がなく均一に混ざり、かつ薄くなりすぎないスラリー、すなわち集電体上で過度に流動しないスラリーを得ることを目標とします4-7。
スラリーは、まずPVDFとNMPについて600 rpmで20分間、その後NMC811とSuper P®を添加した後にさらに30分間、真空ミキサーで混合を継続します。このプロセスにより、コーティングに適した粘度を有する、ダマやばらつきのない均一なスラリーが得られます。図2に示すように、スラリーの粘度は固形分濃度に強く依存します。固形分65 wt.%の場合、スラリーは非常に粘性が高くペースト状となる一方で、20 wt.%では過度に流動的となり、制御不能に広がってしまいます。そこで、固形分濃度を中間的な約35 wt.%に設定したところ、良好な流動性を保ちつつ過度に薄くないスラリーが得られ、集電体上への均一な塗工が可能となりました。図2には、滴下試験におけるこれらの違いを示していますが、これはユーザーが自身のスラリーの粘度が適切な範囲にあるかどうかを視覚的に判断するための指標となります。

図2固形分濃度の違いによるNMC811正極スラリーの粘度依存的な滴下挙動。写真は、固形分65、55、45、35、30、25、および20 wt.%のスラリーをスプーンで滴下した瞬間を捉えたものです。高い固形分濃度(65~55 wt.%)のスラリーは高い粘性を示し、その大部分がスプーンに付着したままになりますが、低い固形分濃度(25~20 wt.%)のスラリーは速やかに流動し、細長い液滴を形成します。写真中央の35 wt.%スラリーは中程度の粘度を示し、明瞭な形状の液滴を形成して、制御された形でスプーンから離脱します。これは、均一な正極塗工に適した粘度であることを示しています。この視覚的な比較は、再現性の高い電極作製を達成するために適切なスラリー固形分濃度を選択する際の実用的なガイドラインとなります。
集電体へのコーティング
塗工:アルミニウム箔を所望の寸法に切断し、清浄で汚染物が付着していないことを確認します。このステップは、わずかな不純物であっても電極性能に悪影響を及ぼしうるため、極めて重要です8,9
スラリーは、ドクターブレードを備えたコンパクトテープキャスティングコーターを用いてアルミニウム箔上に塗工しました。初期の湿潤塗工厚さは約140 µmに設定し、面積容量1.8~2 mAh/cm2を目標としました。この厚さは、電極の最適な性能を確保するために、想定される容量および用途要件に基づいて決定する必要があります。塗工後、図3.1に示すように電極の外観を確認することができ、35 wt.%スラリーでは適切な量を均一に被覆できていることがわかります。
乾燥:塗工したアルミニウム箔を、80℃に設定した真空オーブン内に12時間保持します。このステップにより、溶媒(NMP)を蒸発させ、電極を以降の処理に適した状態にします。乾燥プロセス中は、真空圧を100 mTorr以下に維持してください。また、発生する蒸気を吸入しないよう、乾燥エリアにおいて十分な換気を行う必要があります。
塗工後処理
電極カレンダー処理:電極を乾燥した後、ホットロールプレスの温度を100℃に設定し、アルミニウム集電体の厚みを含めた電極全体の目標厚さが30 µmとなるように調整します。このステップは、均一で高密度な電極を作製するのに適した38~43%の空隙率を達成するうえで極めて重要です。
ホットロールプレス工程は、電極の構造的完全性を高め、より優れた電気化学性能を引き出します。図3.2に示すように、乾燥およびカレンダー処理後の電極表面は平滑かつ緻密であり、スラリーの粘度および混合条件が、信頼性の高い電極作製に適していたことがわかります。

図3.1および3.2電極作製に関する画像:
図3.1 適切な面積当たりの量で、全面を完全に覆う均一で欠陥のない層となるように最適化された35 wt.%スラリーで塗工した正極。
図3.2 信頼性の高い電極作製に適した粘度および混合条件であったことを示す、滑らかで緻密な表面形態をもつ乾燥およびカレンダー処理後の同電極。
打ち抜き:ロールプレス工程が完了したら、直径14 mmの手動式打ち抜き具を用いて、正極電極を所望の形状に打ち抜きます。別途、リチウム金属負極を16 mm、セパレーターを19 mmに、それぞれ適切なサイズのパンチを用いて打ち抜きます。正極、負極、セパレーターを異なるサイズに打ち抜くのは、セルの積層位置合わせを適切に行い、短絡を防止するためです。わずかに大きい負極によって正極の端部を覆い、さらに大きいセパレーターによって電極間を確実に絶縁します。
打ち抜き後、それぞれの正極電極を秤量して、各電極に含まれる活物質量を求めます。これは、セル組立時の電気化学解析を正確に行ううえで極めて重要です。
スラリー固形分濃度が最終的な電極特性に及ぼす影響をさらに明確に示すために、表1に、塗工、乾燥、カレンダー処理を行った後、直径14 mmに打ち抜いて得た電極の重量および容量をまとめました。サンプル名(65 wt.%~20 wt.%)は、スラリー調製時に用いた固形分濃度を示しています。各電極について、総重量はアルミニウム集電体を含む電極全体の質量を、塗工重量はアルミニウム集電体を除いた電極質量を、活物質重量は電極中のNMC811のみの質量をそれぞれ表します。これらの値から、面積当たりの塗工量(mg/cm2)および対応する面積当たりの容量(mAh/cm2)を算出しました。評価した条件の中では、35 wt.%スラリーから作製した電極が狙った1.8~2.0 mAh/cm2の面容量密度を達成しており、この値を私たちはユーザーにとって実用的な目標値として推奨します。この範囲は、塗工の均一性、機械的なロバスト性、および電気化学性能のバランスを両立しており、本SOPにおける電極作製の信頼できるベンチマークとなります10。
実験条件を明確かつ参照しやすくするために、電極作製の各ステップで用いた詳細な実験条件を表2にまとめました。ここでは、バインダー混合および全体混合の各段階における混合速度と時間、塗工厚さ、乾燥温度と時間、さらにカレンダー処理温度および目標厚さを示しています。前述の本文ではステップごとの手順を説明しましたが、この表を参照することで、本手順で実際に適用したパラメータを速やかに確認できます。是非、ご自身の研究室でプロセスを調整または再現する際には、このまとめをご参照ください。
2032コインセルの電池組立方法
電池を組み立てるにあたり、コインセルの構成部品を以下に示す順で準備しました。CR2032コインセルの組み立ては、アルゴン雰囲気のグローブボックス内で行いました。まず、250 µm厚のリチウム金属箔を、対極/参照電極としてコインセル下部ケースの底に配置しました。次に、負極と正極間の電気的絶縁を確保するために、25 µm厚のPP–PE–PP三層セパレーターを挿入し、その後にポリマー製ガスケットを配置しました。続いて、電解液としてLiPF6の1.0 M EC:DMC:DEC = 1:1:1(v/v/v)溶液を約 40 µL添加しました。本SOPでは、フルオロエチレンカーボネート(FEC)やビニレンカーボネート(VC)などのフィルム形成性添加剤は使用していません。その後、あらかじめ打ち抜いておいた正極をその上に配置しました。最後に、ステンレス製スペーサーディスクおよびウェーブスプリングを含む残りの機械部品を挿入し、上部セルキャップで組立体を封止しました11。セルは自動コインセルクリンパーを用いてかしめた後、電気化学測定の前に24時間静置しました。図4には、本SOPにおけるコインセル組立に使用した構成部品を示します。図4.1は、CR2032コインセル電池のすべての部品を、左から右に向かって、下部ケース、リチウム、セパレーター、ガスケット、正極、スペーサーディスク、ウェーブスプリング、キャップの順に配置した写真です。さらにユーザーが使用する各部品をより明確に把握できるように、図4.2~4.4では、それぞれ作製したNMC811正極電極、リチウム金属ディスク、およびセパレーターを個別に示しています。これらの画像は、組立プロセスを開始する前に各構成部品を容易に認識できるようにすることを目的としています。

図4.1~4.4(4.1)2032コイン型電池セルの組立に使用する個々の部品の写真、(4.2)NMC811正極、(4.3)リチウム金属負極、(4.4)セパレーター
電気化学特性評価
塗工した電極の電気化学性能は、コインセルを用いて評価しました。フォーメーション(初期充電)サイクルとしては、C/20で1サイクル、その後C/10で2サイクルを行いました。
レート特性評価では、セルを一定の充電レートC/3の下で、放電レートをC/5から5Cまで(各条件5サイクルずつ)変化させ、その後C/3に戻して基準となるサイクル試験を行いました。長期サイクル安定性試験は、C/3での充放電を最大100サイクルにわたって実施しました。
すべてのサイクル試験は、室温において定電流–定電圧(CC–CV:constant current–constant voltage)プロトコルを用いて実施し、CVステップはC/20のカットオフ電流に達した時点で終了しました。電圧範囲は2.8~4.2 V vs. Li/Li+に設定しました。
結果および考察
本セクションでは、電極の電気化学的な検証結果を示すとともに、トラブルシューティングのための指針とヒントを提供します。
電気化学的検証
図5.1には、C/3の充放電レートにおける長期サイクル試験中のNMC811電極の比容量を示します。100サイクル後も、この電極は166.31 mAh/gの可逆容量を保持しており、この値は86.89%の容量維持率に相当します。挿入図には、代表的なサイクル(5、20、40、60、80、および100サイクル目)におけるC/3での充放電電圧曲線を示しており、サイクル進行に伴う電極の電気化学応答を直接比較できます。この緩やかではあるものの一貫した電圧の変化は、繰り返し動作下におけるNMC811正極の安定性を裏付けています。図5.2には、異なるCレートにおける電極の放電容量を示しています。それぞれ、C/10で207.20 mAh/g、C/5で195.95 mAh/g、C/2で195.76 mAh/g、1Cで195.27 mAh/g、2Cで194.05 mAh/g、5Cで192.88 mAh/gが得られています。
まとめると、充放電データおよび長期サイクルにおける容量維持率から得られた結果は、この詳細に示したSOPに従うことで、さまざまな用途に適した高性能電池を得られることを示しています。

図5.1正極の電気化学性能。C/3の充放電条件におけるNMC811の比容量とサイクル数の関係を示しています。挿入図では、5、20、40、60、80、および100サイクル目における充放電電圧プロファイルを示しており、サイクルの継続に伴う電気化学挙動の変化を把握することができます。

図5.2異なるCレート(C/10、C/5、C/2、1C、2C、および5C)でのサイクルにおける充放電電圧プロファイル
トラブルシューティング
電池電極を作製する際には、いくつかの起きやすい典型的な問題があります。最も頻繁に見られる問題のひとつがスラリーの不均一性であり、塗工品質の低下や乾燥時の電極のクラック発生につながります。これを最小限に抑えるには、活物質および導電材を加える前に、バインダーと溶媒を十分に混合し、大きな凝集塊が残らないようにすることが重要です。もうひとつの起きやすい問題としては、電極の集電体からの剥離があります。これは多くの場合、バインダー量の不足や不適切な乾燥条件に起因します。バインダー含有量の調整、箔の適切な濡れ性の確保、乾燥時間の延長などにより、密着性の改善が期待できます。
図6に示すように、スラリー組成や混合プロセスが最適化されていない場合、いくつかの典型的な不具合が生じます。例えば、過度に高い固形分濃度(65 wt.%)で調製した正極では、乾燥後に顕著な表面クラックが観察されますが、これは高粘度なマトリックス中での溶媒蒸発に伴う内部応力に起因します(図6.1)。一方、20 wt.%のように固形分濃度が不十分なスラリー(図6.2)では、塗工プロセス中に膜が塗工部よりも狭い範囲に偏析しやすく、25 wt.%のようにわずかに高いものの依然として最適値に満たない濃度の場合(図6.3)には、集電体の一部が露出するほど膜厚が薄くなり過ぎる傾向があります。さらに、図6.4に示すように、バインダー量が不十分であるか、あるいはスラリーが不均質である場合には、乾燥後の電極が集電体との密着性を失い、剥離してしまいます。これらの結果から、均一で密着性が高く欠陥のない電極塗膜を得るためには、スラリー粘度とバインダー分布のバランスを慎重に調整する必要があることがわかります。

図6.1~6.4最適化されていないスラリー条件下で作製した電極の代表的な画像。(6.1:クラック、6.2:膜の偏析、6.3:不十分な塗膜形成、6.4:剥離)。すべてのサンプルは同一の塗工および乾燥条件で作製されており、再現性高く高品質な電極を得るためには、スラリー組成と各工程のパラメータを適切に制御することが重要であることを示しています。
もう一つの問題は電気化学特性の低下であり、多くの場合、電極の塗布量や厚みムラが原因となります。もしセルが異常に低い容量や不安定なサイクル挙動を示す場合には、面積当たりの塗布量、厚みの均一性、および乾燥工程を再確認してください。混合速度が不適切である、あるいはバインダーが完全に溶解していないといった、些細に見える要因でも結果に大きく影響することがあります。混合順序、速度、乾燥温度などのパラメータを詳細に記録しておくことで、問題の特定と解決を迅速に行うことができます。
より優れた電池電極とセル組立を実現するためのトップ5のヒント
- 混合順序が重要:バインダーは、活物質と導電助剤を加える前に、溶媒中に完全に溶解させておく必要があります。この段階で導電性カーボンが良好に分散していることを確認してください。導電助剤が適切に分布していることは、電極全体に連続した導電経路を形成するうえで不可欠です。不十分な分散や凝集は、導電性の低下やサイクル特性の劣化を招く可能性があります。
- 粘度を制御:スラリーは、過度に流動的になり過ぎない程度に、集電体上に滑らかに塗布できる状態を目指してください。本SOPでは、固形分35 wt.%のスラリーを用いており、これは理想的な粘度を与える組成を調整するにあたっての基準値となります。
- 均一な塗工が重要:均一な膜厚と表面の均一性を確保するために、キャスティング速度とドクターブレードの高さを一定に保ってください。
- 乾燥温度の制御:電極を80℃で乾燥させることで、溶媒が安定して除去され、均一な乾燥によって塗膜の密着性が向上します。電極の厚さに応じて乾燥条件を調整しても構いませんが、80℃は信頼性の高い初期条件となります。
- セル組立時の電解液注入の制御:セパレーターおよび電極を均一に浸潤させるため、推奨量の電解液をゆっくりと添加してください。充填に過不足があると、電気化学的性能の低下や、試験結果のばらつきの原因となる可能性があります。
本ガイドをPDF(英語)でダウンロードできます。
リチウムイオン電池材料に関する日本語カタログ