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ホーム化学気相成長(CVD)ALD-ナノ構造作製のための多機能ツール

ALD-ナノ構造作製のための多機能ツール

Mato Knez

Max-Planck-Institute of Microstructure Physics, Weinberg 2, D-06120 Halle, Germany

はじめに

ALDは、原子層堆積法(atomic layer deposition)の略語です。ALDプロセスは1970年代に開発されましたが、当初この手法の用途はほとんどがエレクトロニクスに限定されており、ニッチなプロセスに過ぎない状態に留まっていました。近年、ALDは、ナノ構造やマイクロ構造などの非常に微小な構造でも制御しながらコーティングできる能力があるため、大きな関心が持たれるようになってきました。世界中の多数のグループが、さまざまな戦略や改質法を用いて、新規構造や官能化材料を作り出してきました。最も革新的で有望な方法には、鋳型の指示に従った新規構造体合成、材料の選択領域での堆積、温度に敏感な基板への低温ALD堆積、ALDの多機能性を拡大する新プロセスの開発などがあります。

これらのALDの応用はすべて、ALD堆積方法の能力と、先端材料研究への影響を示すものです。特に、単純で効果的なプロセスと、市販されているALD反応装置の数の増加とが相まって、「ナノALD」分野の科学論文の増加にも表されるように、ALDは世界中の研究者の関心を集めています。

この論文では、前述の分野も含めた最近の研究例をいくつか示します。しかし、これは現在の開発状況の一端に過ぎません。さらに包括的なレビューは、他で見ることができます1

ALDプロセス

ALDプロセスとは、気相による薄膜堆積方法で、化学的気相成長(CVD:Chemical Vapor Deposition)と化学的には大変よく似ています。この類似性は、ALD前駆体材料をCVDに使用可能な事実からわかりますが、その逆は必ずしも可能ではありません。物理的には大きな違いがあります。例として、Al2O3の堆積を、トリメチルアルミニウム(TMA、製品番号: 663301)と水を用いて行う場合のCVDとALDの主な差異を説明します。

CVDプロセスでは、TMAとH2Oの2つの前駆体材料が共に反応室内に導かれ、Al2O3 が生成され基板に堆積しますが、ALDプロセスでは、化学反応は2つの半反応に分かれます。最初に基板をTMAに曝すと、化学吸着した(サブ)単分子膜が形成されます(図1a)。吸着の後、気相中の余分なTMAをパージにより除去します。次に基板をH2Oに曝すと、TMAの(サブ)単分子膜と反応してAl2O3 の層が形成されます(図1b)。反応生成物(この場合メタン)と余分なH2Oを除去すると、1サイクルの成長が完了しますが、これを所望する厚さの層が得られるまで繰り返すことができます。「ALD窓」と呼ばれる前駆体物質固有の温度範囲内でプロセスを実行すれば、膜の成長が直線的になり厚みをÅ単位で制御することが可能です。

ALDプロセスの1サイクルの概略図。TMAと水を前駆体として使用したAl2O3の堆積に関する簡易モデル。

図1ALDプロセスの1サイクルの概略図。TMAと水を前駆体として使用したAl2O3の堆積に関する簡易モデル。

ALDの大きな長所は、プロセスが、CVDの場合のように方向性を持った堆積ではなく、表面が前駆体(TMAなど)により化学的に飽和され推進されることです。したがってALDプロセスでは、アスペクト比が非常に高くても2 、エアロゲルなどの非常に複雑な材料でも、ナノ細孔の表面にコンフォーマルコーティングを行うことができます3

鋳型を用いたナノ構造の合成

鋳型を用いたナノ構造の合成は、ALDにおいて最も急速に成長している分野です。さまざまな鋳型を用いて、ナノ構造のコンフォーマルコーティングおよび複製または官能化をできます。これには、ナノ基板およびマイクロポーラス基板、ナノスフェアの配置、ナノワイヤ、ナノチューブ、さらには単一のナノ粒子などが含まれます。

鋳型を用いてナノ構造を合成する最も簡単な方法は、おそらく多孔性材料を使用することです。過去数年間に、さまざまな材料からナノチューブやナノチューブアレイを合成することに関する論文が多数発表されました2 。最近では、ナノチューブ合成の焦点は、基本的材料の堆積から機能材料の堆積に移行してきました。例えば、最近、酸化鉄(図2)やニッケルのALD堆積により、ナノ多孔質陽極アルミナ鋳型から磁気ナノチューブを作製できることが示されました4,5

酸化鉄チューブの電子顕微鏡写真

図2酸化鉄チューブの電子顕微鏡写真(走査型電子顕微鏡[SEM]、透過型電子顕微鏡[TEM])スケールバー:100 nm(a)アルミナ鋳型に埋め込まれた細いチューブ(11±4 nm Fe2O3、緑色の円)配列のSEM。カラー化によりコントラストを強調。(b)鋳型の溶解により単離された厚く短いチューブ(42±4 nm Fe3O4)のTEM。非常に滑らかな壁を拡大して撮影。(c)鋳型に埋め込まれた厚いZrO2/Fe2O3/ZrO2チューブ(12±2/26±4/12±2 nm)配列のSEM。チューブが破断し、膜の上面に露出した亀裂のエッジビュー。J. Am. Chem. Soc.2007, 129, 9554–9555より許可を得て転載(Copyright 2007 American Chemical Society)。

ナノワイヤも、ナノ多孔性材料と同様に、ナノワイヤのALD堆積とそれに続く除去のための鋳型として使用できます。特殊な環境では、固体拡散反応を誘起することによっても、ナノチューブが作製されます6,7

機能性ナノ構造の合成に向かうトレンドが認められます。最近、ALD堆積、還元、およびレイリー不安定性の開始を組み合わせることにより、規則的なナノチェーンの配列にCuナノ粒子が組み込まれたTiO2ナノチューブが合成されました(図38 。このようなナノ構造を最適化すると、将来ナノ光学やプラズモニクスに応用される可能性があります。

ナノ粒子チェーンのTEM画像

図3異なる温度で1時間、20 nmのAl2O3シェルを持つCuOナノワイヤを水素で還元して得られたCuナノ粒子鎖のTEM画像:(a、b)600℃で調製したサンプル、(c、d)750℃で調製したサンプル。パネル(b)および(d)は、パネル(a)および(c)に対応する高倍率のTEM画像。Nano Lett.2008, 8, 114–118より許可を得て転載(Copyright 2008 American Chemical Society)。

ALDによって製造された高度な光学ナノ構造はすでに存在しています。この堆積法の利点により、ナノスフェアの規則性の高い配置を複製することで、さまざまな材料から逆オパール構造の生成が可能になりました。ジョージア工科大学とハーバード大学の研究グループが活発に研究を進めています。さまざまな逆オパールがALDによって合成され、特徴付けられました。堆積された材料には、WN、TiO2、Ta3N5、ZnO、GaAs、またはTiO2/ZnS多層が含まれます9-12 。このような構造は、例えばフォトニック結晶など、大きな可能性を示しています。このシンプルな合成法のおかげで、今後さらに開発が進むでしょう。

比較的難しい分野は、カーボンナノチューブ(CNT)を鋳型として使用することです。カーボンナノチューブの表面は不活性であるため、ALDによるCNTのコーティングは非常に困難です。しかし、その形状と安定性から、CNTは鋳型として依然として非常に興味深いものです。そのため、均一なコーティングを実現するための戦略が開発されました。さまざまな報告によると、例えばNO2でCNTを官能化させた後、Al2O3、HfO2 、またはRu酸化物でコーティングすることが実際に可能になります13–16 。これらのコーティングは、CNTの物理的および/または化学的特性の改善に役立つ可能性があります。しかし、技術的な利用には、さらなる研究と開発が必要です。

おそらく、ALDでは最も難しいナノスケールの鋳型は単一ナノ粒子でしょう。コーティングは容易かもしれませんが、こうした材料の取り扱いには困難が伴うことがよくあります。連続的なコンフォーマルコーティングを得たい場合は、ナノ粒子同士、および/または反応器の壁との接触を防ぐ必要があります。しかしながら、ここでもある程度の進展が見られました。コロラド州ボールダーのグループが、コンフォーマル性を確保するために、ALD堆積中にナノ粒子を取り扱う方法が少なくとも2つあることを示しました17

領域を選択しての材料堆積

ALDにおける非常に興味深い開発分野は、ASD(領域選択堆積)です。ALDの最も強力な用途はアクセス可能なすべての表面のコンフォーマルコーティングですが、化学的に調整することで、個別の領域に堆積を集中させることも可能です。リソグラフィで生成された構造のパターンは、前駆体分子の吸着を誘導または防止するために、(例えば、各種シランにより)選択的に親水性または疎水性に切り替えることができます18 。非常に洗練されこの方法であれば、特定の用途に必要な材料のナノスケールパターンを得られます。原理そのものは単純で効果的です。ほとんどの場合、この戦略は、電子活性材料または光学活性材料を得るために、さまざまな材料を構造化された方法で広範囲に堆積させるために広く適用されるでしょう。

低温ALD堆積

低温ALD(LT-ALD)は、ますます重要な役割を果たしつつあります。薄膜堆積では、温度に敏感なために他の方法(CVDなど)ではコーティングできない材料にコーティングすることができます。基板には、ポリマーや生物学的鋳型などがあります。

LT-ALDに関する初期の実験が1994年に行われ、室温でSiO2 を堆積しました19 。その後、CdS、Al2O3、TiO2、B2O3、V2O5、HfO2、ZrO2、ZnO、さらに金属Pdなどの材料につき、多くのLT-ALDプロセスが成功裏に開発されました1,20,21 。この材料リストだけでも素晴らしいものですが、より多くの利用可能なプロセス、特に金属堆積用プロセスに高い関心が持たれるであろうことに疑いの余地はありません。フレキシブルな電極を得るため、ポリマー構造体に金属電極を堆積する可能性を検討すると、LT-ALDの重要性が明確になります。この分野の開発はごく初期段階にあり、近い将来、さらに多くの材料がLT-ALD手法により堆積されると予測されます。

LT-ALDの応用例として特に興味深いのは、生体ナノ構造のコーティングや官能化の可能性がある点です。自然はすでに何百万年にもわたってナノテクノロジーを応用してきました。蓮の葉が水をはじくのは、マイクロ構造やナノ構造に関連していることを考えると、今でも自然から学ぶことができることは明らかです。自然界には完璧なナノ構造が存在するケースもあり、それを簡単に複製することで、ナノメートル単位の精度でより複雑な成長や作製を行う必要がなくなります。しかし、ここでの制限要因となるのは、関連するテクノロジーで、例えば、ALDの場合は真空プロセスと堆積温度です。真空プロセスは避けることができないため、耐真空性のある構造の場合、堆積温度が重要となります。ALDによる生物学的なナノ構造およびマイクロ構造のコーティングの試みが、すでにいくつか報告されています。この種の初期実験では、植物ウイルスとフェリチン球に金属酸化物をコーティングし、微小金属酸化物ナノチューブと、フェリチン分子を埋め込んだ自立膜が得られています(図4)。

ALDで処理したフェリチン分子のTEM画像

図4ALDによりAl2O3(a)およびTiO2(b)で処理したフェリチン分子のTEM(200 kV)画像。非晶質の自立Al2O3およびTiO2膜に埋め込まれたフェリチン分子を示す。濃い灰色の部分はTEMグリッド上のカーボン膜の穴に由来。画像(b)の黒い点はフェリチンの酸化鉄コア。膜には亀裂があり、画像(b)では自立膜が横側から巻き上げられていますが、これはTEMの電子ビームによるもの。Nano Lett.2006, 6, 1172–1177より許可を得て転載。Copyright 2006 American Chemical Society。

その後の研究で、ナノ構造のチョウの羽根をAl2O3 でコーティングする可能性と、これによりコーティングの厚さに応じ色が変化する構造化されたサンプルを得られる可能性が示されました22 。この分野は緩やかに発展していますが、近い将来活動が活発になり進歩が見られると予想されます。

新規プロセス

ALDの開発以来、研究のほとんどが新しいプロセスの開発に費やされてきました。主に金属酸化物ですが、窒化物、炭化物、硫化物、燐化物、金属を含め、多くの材料の堆積に成功しています。既知の例は、純元素または二元化合物、三元化合物のいずれかで周期表の大半を占めています。

開発されたプロセスのほとんどが、エレクトロニクスや光学用途に関心の向く材料に集中しているとはいえ、他にも重要な応用分野があります。特に魅力的な新プロセスはALDによるアパタイトの堆積で、生体適合材料の合成に広範な用途を見出す可能性があります23 。このようなプロセスが、日常的に制御できる形で応用できれば、可能性のある用途は多数あるでしょう。

またALDで堆積の対象とする材料として非常に興味深い新たなグループは、ポリマーまたはその誘導体です。1991年、ポリマーALDの原理、いわゆる分子層堆積(MLD)が実証されましたが24 、この研究が注目されるようになったのは15年ほど経った、非常に薄いポリマーフィルムを製造する新たな試みがなされるようになってからです。それ以来、ALDプロセスは、無機材料だけでなく有機分子も堆積できることから、薄膜堆積のための実に多用途なツールとなっています。さらに、有機分子と無機分子を交互に積層したハイブリッド材料の合成に関する研究も行われました。この特殊分野のALD(MLD)に関する詳しい情報は、Material Matters本号のS.M. Georgeらの論文(34ページ)に記載されています。

有機-無機ハイブリッド材料は、特異な特性を示し、さまざまな生物医学や環境用途でに役立つことが証明される可能性があるため、この方向でのさらなる開発に大いに興味が持たれます。

結論

ALDは、マイクロ構造またはナノ構造を含む薄膜の制御されたコンフォーマル堆積に適した方法として登場しました。多くの材料がALDで堆積させることができます。反応器を商業的に入手できる可能性に加え、前駆体の数が着実に増加していることから、ALDプロセスは、この分野に新規参入者にとって特に便利で魅力的なものとなっています。非常に特殊な目的のための特定のプロセスまたは前駆体にはまだ制限がありますが、一般に、ALDのさらなる応用の唯一の限界は研究者の想像力と創造性であると考えられます。

Acknowledgment

Dr. Mato Knez gratefully acknowledges financial support by the German Ministry of Education and Research (BMBF) under the contract number 03X5507.

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